盆だから

盆踊りの会場。境内には様々な出店が出ている。二人の浴衣姿の男が階段を上がってくる。保志は祭りの陽気に少し浮かれている。徹はその様子をあきれた感じで見るが、やはり、どこか浮かれている。
 
保司 「お祭りっていいよなぁ。」
徹  「そうか?」
保司 「なんか、こう…血が騒ぐ!」
徹  「うぜぇ。」
保司 「黙れ非国民。」
徹  「失せろナショナリスト。」
笑い合う二人。その脇をお面をつけた子供たちが走り抜けていく。
徹  「そういや、お盆って死んだ人が帰ってくる日なんだってな。」
保司 「へぇ。」
徹  「そんで、盆踊りってのは、帰ってきた人たちが喜んでる姿を表してるんだと。」
保司 「…それで。」
徹  「いや、それだけだけど…ただ、もしかしたら、
    ここにいる人達の中にはそんなのも混じってたりしてな、と思って。」
保司 「なんだ、それ。お前、妙な本読み過ぎだ。」
徹  「うるさい、リアリスト。」
二人は盆踊り会場に向かって歩いていく。その後ろで、火の玉の提灯がともっている。
二人のついた盆踊り会場では色々なお面をつけた人達が踊っている。
保司 「俺、ここの祭り初めて来たけど…妙じゃねぇ?」
徹  「そうか?こんなモノだろ。」
保司いぶかしげな表情を浮かべるが、
すぐに気にせず会場の周りの露店をのぞきだした。
狐面しかない面屋。
奇妙に光る金魚を掬う子供たち。
怪しい景品の並ぶ射的に興じる恋人たち。
皆一様に面をかぶっていた。
よりいぶかしげな表情になる保司。
不意に周りが明るくなった。
振り返った保司は空に昇る幾条モノ青白い光をみる。
保司 「…花…火…?」
徹を振り返った保司は、盆踊りの会場が無くなっているのを見る。
徹は何もない境内の真ん中で困ったような悲しいような表情をして立っていた。
徹は呟く。
徹  「盆だから…か。」
保司 「はぁ?」
何だ、という顔をする保司を徹は無言で見る。
保司 「お前何言ってるんだ。」
懐から時計を取り出す徹。時計は十二時を指している。
徹  「盆は終わりだよ。徹。」
保司 「あぁ?」
保司の疑問符が言い終わらぬ間に、保司の体は青白く発光しだした。
数瞬後には保司の体は光に溶けた。
光は少しの間とまどうようにその場に留まっていたが、ゆっくりと加速度をつけて空に昇っていった。
徹はその光が闇に溶けるまで、じっと見上げていた。
徹  「また来年な…」
徹は誰もいなくなった寺の境内を歩き出した。
下駄の音が静かに響いていた。


戻る