歯車

S−1(昼 自販機前)
(自販機の前で玲は何を買うか悩んでいる。)
玲(ナレ)「僕は決断することが苦手だ。あれも、これも、よく見えて…」
(時間切れでお金が落ちてくる。)
玲(ナレ)「結局、いつも流されて…」
(お金を取って歩き出す。)
玲(ナレ)「その結果を受け入れてしまう。」
(誰もいない自販機前)
玲(ナレ)「そんな自分が…僕は嫌いだった。」

S−1'(昼 学校)
(教室で玲、女友達の加奈と話している。加奈は少し嬉しそう。)
玲  「どうしたの。なんかいいことあった?」
加奈 「えっ…何で?」
玲  「なんか今日、テンション高いからさ。」
加奈 「そ、そうかな。」
(加奈、ちょっと恥ずかしそうに笑う。)
加奈 「じ、じつはね…」
(辰也、教室に入ってくる。)
辰也 「おっはよー。」
玲  「おはよう。」
加奈 「…おはよ。」
辰也 「おはよう。」
(辰也と加奈、目をあわす。その様子を見て。玲、何かに気づく。)

S−1''(昼 水路のある道)
(水路前で玲立っている。ポケットの中から大切そうに写真を取り出すそこには加奈が写っている。破り捨てようとするができない。ポケットに写真を戻そうとするが落としてしまい写真は水路に流れていく。流れていく写真を見送る玲。無表情。その様子を窺う人影。)

S−2(昼 人気のない道)
(玲、ひとりで歩いている。道の真中で仁王立ちをしている黒ずくめの男がいる。玲、目をあわさないように足早に横を通り抜けていく。)
黒男(off)「おい、お前。」
(玲、振り返えらずに歩き続ける。)
黒男 「お前だよ、お前。」
(男そう言いながら近づいてくる。玲、無視して歩きつづける。)
黒男 「おい、待てよ。」
(玲、無視して角を曲がる。目の前に男現われる。)
黒男 「待てって言ってんだろ。」
(玲、ビビリながら諦めて男の話を聞きだす。)
玲  「な、なんですか。」
黒男 「用もないのに人を呼び止めるほど俺はヒマじゃねえよ。」
玲  「…それで何ですか?」
黒男 「ちょっと頼まれてもらいたいんだ。」
玲  「なにを…」
黒男 「なぁに簡単のお使いだ。明日な、こいつで…」
(黒男、懐から銃を取り出し玲に向ける。)
黒男 「鉛をプレゼントしてもらいたいんだわ。」
玲  「それって、こここ…」
黒男 「いんやプレゼントだ。」
玲  「…そんなことできません。」
黒男 「お前、変わりたいんだろ。決断できない自分が嫌いで。」
玲  「なにを根拠に、そんなでたらめ。」
(男、懐から写真を取り出す。さっき流されていった加奈の写真。それを玲に見せる。玲それに気付き写真から目をそらす。)
黒男 「先ぃこされたなぁ。」
(無言の玲。張り付いた笑みを浮かべて立っている男。男、銃を玲に差し出す。)
黒男 「変わりたいなら、取れ。後始末は俺がちゃんとつけてやるよ。」
(玲ゆっくりと銃を見る。加奈と辰也が浮かんでくる。恐る恐る銃を受け取る玲。それを満足げな表情で見ている男、相変わらず張り付いた笑みを口元に絶やさない。銃をまじまじと見ている玲。男、玲に近づき写真を玲に渡す。)
黒男 「そんじゃ、詳しいことはそいつに書いてあるから、頼んだぜ。」
(男、玲の肩をたたいて去っていく。振り返る玲。そこにはもう、誰もいない。再び手の中のモノを見つめる玲。ふと近くにあった空き缶に向かって引鉄をひく。はじけ飛ぶ空き缶。反動でしりもちをつく玲。玲、呆然と空き缶を見つめているが、ふとわれにかえりその場から逃げだす。風で転がる空き缶。)

S−3 (夜、玲のアパートの前)
(玲のアパート外観)

S−4(夜、玲の部屋)
(雑然としたコタツの上に銃が置かれている。玲、台所からカップラーメンを持って現われる。コタツ上のものをどかしラーメンをおき座る。そのとき一瞬、銃を見るがすぐに目をそらす。TVをつける。)

S−5(映画)
(映画がやっている。(派手な銃撃シーンのあるもの)で、銃撃シーン)

S−6(夜、玲の部屋)
(玲、慌てテレビを消す。再び銃を見る。今度は手にとって、まじまじと見だす。
銃を構えて、玄関の扉を狙う。不意にドアを誰かがたたく。玲、緊張し強張る。)

S−7(夜、玲の部屋の前)
(男がドアをたたいている)

S−8(夜、玲の部屋
(玲、銃を持ったまま、恐る恐るドアに近づいていく。あい変わらずドアを誰かがたたいている。
ドアの前に立った玲、覗き穴から外を窺おうとした時、外から声がかかる。)
辰也 「あきらー寝てんのか。」
(玲、友人の声にほっとする。)
辰也 「おーい。」
玲  「聞こえてるよ。ちょっと待って。今開けるから。」
(玲、鍵を開けようとするが、手に銃を持っているのに気付いて慌てる。)

S−9(夜、玲の部屋の前)
(辰也が立っている。部屋の中でドタバタする音が聞こえる。静かになった数瞬後、
ドアが開き、玲が現われる。)
玲  「お待たせ。」
辰也 「お待たせじゃねーよ。いつまで待たせんだよ。エロ本でも隠してたのか?」
(辰也、部屋を覗こうとする。玲、さりげなく体をずらしそれを阻もうとする。)
玲  「な、何か用。」
辰也 「うん…今日おまえ、ガッコで元気なかっただろ、風邪でもひいたかと思ってな。」
玲  「え、ああ、大丈夫だよ。ありがと。」
(玲、辰也の提げているものを見る。ビニール袋に入った一升瓶。辰也、玲の視線に気づく。)
辰也 「大家からもらったんだけどよ、ひとりで飲むのは淋しいから。」
玲  「…それが本題ね。」
辰也 「まあ、いいじゃねーか。お前も嫌いじゃねーだろ。」
玲  「そうだけど…い、今部屋汚れてるから、また今度じゃだめ?」
辰也 「はっ?汚いのはいつものことだろ。なにバカなこといってんだ。」
(辰也、無理やり押し入る。)

S−10(夜、玲の部屋)
(玲の部屋に入ってきた辰也、部屋を見渡す。)
辰也 「何だ、きれいじゃねぇか。」
(辰也、酒を置いてベッドのそばに座る。)
玲  「無理やり入ると思ったから、片付けといたんだよ。」
辰也 「ふーん、てことはブツはまだ遠くには、行ってないな…ここか。」
(辰也、ベッドの下にいきなり手を突っ込む。
緊張する玲。
何かをつかみにやりとする辰也。
引き抜くとその手にはネコの写真集(卒業アルバムでもいいかな)が。辰也あきれたような表情。)
辰也 「…お前…」
(玲、ちょっと照れたような表情。)
玲  「…」

S−10’(夜、玲の部屋)
(つまみの散乱しているコタツの上。玲と辰也、酒を酌み交わしている。辰也大分酔っている。訳のわからないことを言ってるが、不意に真剣な顔をして、)
辰也 「実はよ、俺、彼女ができたんだ。……何だ驚かないのか?」
玲  「加奈でしょ。」
辰也 「な、何で知ってんだ。お前、俺のストーカーか?」
玲  「な、訳ないでしょ。…二人の様子を見ればわかるよ。」
辰也 「そ、そうか?じ、実は、昨日告白してよ…あの時は結構ドキドキしたよ…」
(玲、笑顔で辰也のノロケ話を聞いている。)

S−11(朝、玲のアパート)
(玲のアパートの外観。すずめの鳴き声。)

S−12(朝、玲の部屋)
(荒れてる部屋。玲、床に突っ伏している。起きた玲、辺りの様子を見てため息をつく。玲、ベッドの下に徐に手を突っ込み引っ張り出す。その手には銃が握られている。決心したような表情を浮かべる玲。)

S−13写真の裏)
(地図が描き付けられていて、「そこの自販機で11時にジュースを買う人物に」という書付がある。)

S−14(昼、例の自販機の見えるところ)
(メモから顔をあげる玲。視線の先には自販機がある。)
玲  「ここ…」
(玲、懐に手を当て、銃を確認する。時計を見ると時計は10:50をさしている。不意に車の音がする。びっくりして玲、物陰に隠れる。車自販機の前で止まる。緊張して銃を握る玲。しかし車の人は、買いたい物が無かったらしく、何も買わずに去っていく。ほっとする玲。そして我に返る玲。)
玲  「何やってるんだろ俺。」
(誰も通らない。)
玲  「帰ろ。」
(踵を返した玲の耳に、自販機にお金を入れる音が聞こえる。振り向くと自販機の前に男(辰也)が立っている。時計を確認すると、ぴったり11 時をさしている。)

S−15(自販機前)
(男は何を買おうか悩んでいる。)

S−16(昼、例の自販機の見えるところ)
(玲、震えながら懐から銃を取り出す。)

S−17(自販機前)
(男はまだ何を買おうか決めきれない。)

S−18(昼、例の自販機の見えるところ)
(玲、ゆっくりと銃を構え男に狙いをつける。時間切れで、お金の落ちてくる音がする。それをとろうと男かがむ。不意に男の携帯が鳴り。男、携帯をとる。そのとき、男の顔が見える。それは辰也だった。驚いて銃を降ろす玲。)
玲  「辰也…」
黒男(モノ)「…お前、変わりたいんだろ…」
(玲、葛藤しながら再び銃を構える。)
黒男(モノ)「…決断できない自分が嫌いで…」
(玲、引鉄に指をかける。)
黒男(モノ)「…先ぃこされたなぁ…」
(玲、指に力を入れかける。)

S−19(回想)
(加奈の笑い顔、はにかんだ顔)

S−20(昼、例の自販機の見えるところ)
(玲どうしても引鉄をひけず銃を下ろす。その瞬間、背後から黒男の声がする。)
黒男(off)「しょうがねーな。」
(黒男はそういい終わると同時に銃声が響き、辰也が倒れる。驚いて振り返る玲。そこには銃を構えた黒男が張り付いた笑みを浮かべて立っていた。呆然とする玲。辰也うめく。そのこえにわれに返る玲。辰也に駆け寄る。)
玲  「大丈夫、辰…!?」
(玲、男の顔を見て動きが止まる。打たれて倒れていたのは、玲だった。)
黒男(off)「嫌いなんだろ、自分が。楽にしてやれよ、そうすればお前は変われる。」
(玲、呆然と男を振り返る。そこには、張り付いた笑みを浮かべる玲が立っていた。男は玲に銃を差し出して言う。)
黒男 「やれ。」
(玲、震えながら黒男から視線をそらす。
悩んでいる玲。黒男はそんな玲の様子をみおろしている。)
黒男 「何をためらう。
お前は俺からこいつを受け取った。そのときお前は決めたんだろ、変わるってよ。」

玲  「できない…できないよ。」
黒男(off)「…そうか、じゃあ俺がやってやる。」
(驚いて黒男を見る玲。銃口は玲に向けられている。驚きと恐怖で凍りつく玲。
黒男、引鉄をひく。
倒れる玲。
ひいた画面。地面には玲だけが倒れている。暗転)

S−21(S−2と同じ道)
(玲、目を開ける。辺りを見渡すと最初に黒男と会った道。大慌てで全身をまさぐる玲。ほっとする玲。その口元には張り付いた笑みが浮かんでいる。遠くから玲の叫ぶ声がする。)

END?