シネマな人々 第壱回


s-0 予告編 「波紋の恋」
(浜に立つ男女ふたり。打ち寄せる波。流れる雲。)
ナレ  「シーズンも過ぎた9月の海で二人は出会った。」
(泣いている少女。憤っている少年。)
ナレ  「しかし、それは別れへのプロローグに過ぎなかった。」
少年  「行くな。行かないでくれ。」
  (泣いている少女)
少女  「じゃあね、いい娘見つけなよ。」
  (画面に文字、
“シネマ工房待望の次回作「波紋の恋」
近日公開”F.Oする画面。波の音が流れる)


s-1 合宿六日前 
シナリオを書く者 シナリオを待つ者達
(立ち上がってうろつく。部室の隅に転がっているマンガ雑誌を読みだす。
最初はぱらぱらと無関心にめくっているが、次第に漫画にのめりこんでいく。)
広二 「ハラヤんシナリオできた」
(原弘、驚いてばたばたする。広二が入室してくる。)
原弘 「ノックは部屋に入るときにしろよ。」
広二 「…他にいつすんだよ。…ハラヤんサボってただろ。」
原弘 「何言ってるんだ、そんなことは無いぞ。
ただちょっと目に止まっただけで、参考に、…うんそう今度のシナリオの参考にしようと思って読んでたんだよ。」
(広二、言い訳くさいという感じで苦笑いを浮かべている。)
広二 「…そんなんで大丈夫かよ、合宿は来週だろ?」
原弘 「大丈夫、間に合わせる。」
広二 「ほんとか。間に合わなかったどうすんだよ。
部長怒ると怖いぞ。」
原弘 「そ、その時はその時だ。」
千裕 「その時が、きちゃいけないのよ原弘君。」
広、原 「部長!」
(部室の入り口のほうに、相澤千裕が腕組みをして立っている。
千裕、つかつかと原弘のところに近付いてくる。原弘の表情が凍り付いている。千裕、淡々とした口調で言う。)
千裕 「部長じゃないでしょ。いつになったらシナリオがあがるのかしら。
せめて、舞台ぐらいはっきりしてもらわないと、
合宿の場所が決められないんだけど?」
原弘 「ば、場所ですか…。」
(原弘、目線が泳ぐ部室に貼られていた海のポスターが目に止まる。)
原弘 「海、…海です。」
広二 「をい、そんな決め方でいいのか。」
千裕 「海ならどこでもいいのね?」
(うなずく原弘。)
千裕 「じゃあ私ちょっと行ってくるから。」
広二 「部長も、それでいいんですか。ぶちょお。」
(千裕、部室から急いで出て行く。
入れ替わりにハルカ、華恵、藍がはいってくる。)
ハルカ 「部長どうしたの?」
広二 「うん、ああ、とりあえず合宿の場所が決まったから、予約をしに。」
ハルカ 「ふーん。じゃあシナリオできたんだ。見せて。見せて。」
広二 「え、あ、うん、や、なあハラヤん。」
(原弘、黙々と原稿用紙に文字を綴っている。
ハルカと広二のやり取りに気付いていない。裏切られたような表情を浮かべる広二。)
華恵 「え、まだなの。大丈夫、合宿来週でしょ。間に合うの?」
広二 「現在鋭意制作中なので、多分…。」
ハルカ 「多分じゃないよ。私、そのためにバイトも休みとってるのに。
一週間前なのに、まだ台本ができてないなんて信じらんない。
役者は台本もらって、『はい、そうですか』ってできるほど甘くないんだよ。わかってる。」
広二 「ええごもっともで。」(恐縮)
ハルカ 「大体去年もそうだった。原弘がシナリオ書くって、一人で突っ走って、
結局シナリオが出来上がったのが、合宿の2日前。
こっちがセリフ覚えるのにどんなに苦労したかわかる?」
広二 「…だったらハラヤんに直接言えばいいだろ。俺に言ったってシナリオはあがらねーよ。
おまえらはいつも文句だけ言って何もしねー。
ちょっとはアイディア出すとか差し入れ持ってくるとかできねえのか?」
ハルカ 「な、何よ急に…と、とりあえず、早く書き上げるように原弘をせかしておいてよ。」
(ハルカ、華恵、部室から出て行く。
藍、軽く会釈をして二人を追いかける。入れ違いに部長入室。)
千裕 「災難だったわね。」
広二 「部長見てたんなら、何とか言ってくださいよ。」
千裕 「まあまあ。彼女たちの気持ちもよくわかるから、つい、ね。」
広二 「ついじゃないですよ。」
千裕 「と言うわけだから、原弘君も、早いところ書き上げてね。」
広二 「はぐらかした…」
(千裕と広二、原弘を見るが、原弘はシナリオ書きに夢中になっていて気付かない。
しょうがないといった感じの千裕。)
千裕 「この様子だと今日明日中にでも完成しそうね。原弘君書き出すと早いから。」
(携帯が鳴る、取り出して着信を見たとき、一瞬微妙に辛い顔をする千裕。
気を取り直し広二に一言いって出て行く。)
千裕 「じゃ、とりあえず私は帰るから、あがったら電話するように伝えて。」
(残された広二何だろうという顔をする。
原弘は相変わらず黙々と原稿を埋めていっている。)

 第弐回