シネマな人々 第弐回


 
s-2合宿五日前 一年生達
(木陰で朱美と秋生が座ってぼんやりしている。暑さでだれている。
会話をしているがお互いの顔を見ない。)
秋生 「シナリオあがらないねーあっちゃん。」
朱美 「うん。」
(しばしの沈黙。)
秋生 「暑いねー。」
朱美 「うん。」
(再び沈黙。)
秋生 「夏休み、康ちゃんとどっかに行った?」
朱美 「うんん。」
秋生 「ふーん、そうなんだ行ってないんだ。で、どこに行ったの?」
朱美 「だから、行ってないの。」
(秋生驚き、朱美を見る。そして普段の調子でまくし立てる。
しかし朱美は相変わらずの調子で答える。)
秋生 「なんで、夏休み前はあんなに海行こうとか山行こうとか言ってたのに。
どうして?なんで?」
朱美 「知らない。
でも、なんか最近コウキ、よそよそしいし、電話してても時々上の空だし、私コウキの機嫌を損なうことしちゃったのかな、それで私に愛想尽かしちゃったのかな、それとも他に好きな人が出来たのかな…」
(朱美、言いながら感情が高ぶっているのか目が潤みだす。最後のほうは半分涙声。)
秋生 「あっちゃん…
大丈夫!あいつはそんな奴じゃないよ!こないだも電話で話してたたら、のろけ聞かされてこっちから電話切ってやったんだ。どこにも行かないのは、おおかたゲームかCDでも買いすぎて、お金が無くて行けないだけじゃないかな。
そんで、それが言い出し難くて、よそよそしいんだって。第一あいつは浮気なんて出来る玉じゃない。あたしが保障する。あっちゃん、もっと、あいつを信じてやんなよ。」
朱美 「ふふ、フォローになってないよアキちゃん。…うん、でもそうだよね。うん。」
康煕 「(off)おーい、アイス買ってきたぞ。」
(康煕、コンビニの袋を下げて現われる。
朱美、さっきまでの泣きそうな顔から一転して、笑顔になる。一瞬困惑する秋生。)
康煕 「ん、どうしたんだ秋生?」
秋生 「別に。にしても、遅いっ。どこまで行ってたんだよ。」
康煕 「遅いって、いつもと同じとこだよ。時間もそんなにかかってないぞ。」
秋生 「関係ない。あたしが遅いと言ったら遅いの。」
康煕 「そんな横暴な。」
秋生 「横暴じゃない。
こんな熱い中、か弱い乙女二人待たせて日射病にかかったらどう責任取るつもり。」
康煕 「か弱い乙女、ふたりー!?おれには一人しか見えないけど。」
秋生 「この暑さで、目までおかしくなった?」
康煕 「なんだと。この暴力男女。」
(朱美、二人のやり取りを、ほほえましいものでも見るようにみている。
朱美の携帯が、メールの着信を伝える。開いたメールにはシナリオが完成したことと、明日部会があることが書かれている。)


s-3 合宿四日前 荒れる部会
(ざわついた教室、達也以外の部員がみんな集まっている。思い思いにシナリオを読んでいる面々。時計を見る千裕。集合時間から30分遅れているのを確認して、諦めたように教壇に立つ。)
千裕 「みんな静かにして。一人足りないけど、これから部会をはじめるから。天子、アレ配って。」
(天子、うなずいて、紙の束を持って立ち上がり全員に配る。)
千裕 「長い間、場所が決まって無かったけど、今年の合宿の場所は、神奈川の三浦海岸に決まりました。」
(拍手が巻き起こる。千裕、それを制して再び話し出す。)
原弘 「詳しいことは今配ったしおりに書いてあるとおりだから。みんなしっかり読んどいてね。それじゃ、合宿で撮るシナリオについて、原弘君から説明お願い。」
(原弘立ち上がり心もとない足取りで壇上に向かう。)
原弘 「どうも、遅くなってすいません…えーと、まあ読んでもらったとおりの話です。以上で。」
千裕 「そうじゃないでしょ。もっと何か言うことあるでしょう。」
原弘 「えー。」
千裕 「えーじゃないの。」
(千裕、怖い顔をしている。怯える原弘。しぶしぶ話し出す原弘。)
原弘 「…今回の話は、まあ多重人格症の少女と普通の少年との恋の話です。おとなしい性格の本来の人格と活発な性格の第二の人格、んで、主人公の少年は活発な第二の人格に惹かれるんです。でも、…」
(大きい音がして、ドアが開き達也が入ってくる。手には紙の束を持っている。悪びれた様子も無く席につく。)
原弘 「まあ、後は監督に譲ります。」
千裕 「原弘君。」
(びくっとする原弘、しかし、達也は意に介した様子も見せずに壇上に上がる。)
達也 「遅くなってすまん。コンテを切っていた。それと、キャストを決めてきたから、今から発表する。」
(達也、黒板に配役を書き出す。一年生の朱美と康煕を主役に据える配役に驚くみんな。
千裕と天子は当然と言った顔で見ている。)
達也 「以上だ。」
ハルカ 「ちょっとまって、なんで私が脇役で、一年が主役なの説明しなさいよ。」
達也 「適しているからだが。」
ハルカ 「その理由を聞いてるのよ。」
達也 「はっきり言っていいのか。」
ハルカ 「そうよ。くだらない理由だったら許さないからね。」
達也 「…お前より、うまいからだ。」
(ハルカ、一瞬何を言われたか分からなかったが、その後、怒って教室から飛び出す。華恵ハルカの後を追って飛び出す。藍どうしようか悩むが、結局後を追って出て行く。騒然とする教室。平然としている達也、よく訳がわかっていない朱美、事態の重大さにおろおろする康煕、
興奮している要、興味津々の秋生、楽しそうな広二、困ったなという顔をしながらもあまり困っていない天子と千裕、またかという感じの原弘。)