夏の雨 前編 3/3
雨は幼い頃を思い出させる。
私が幼稚園に上がる前、親は共働きで、よく一人で留守番をしていた。
雨の日の留守番は、遊びに来る友達もなく、遊びに行くわけにも行かず、ぼんやりと外を眺めて過ごしていた。
雨の音を聞きながら眺める外の景色は灰色で、静かで、なんだか自分だけが世界に取り残されてる感じがして、悲しくて、淋しくて、怖くて、涙が出た。そんなときは、テレビから流れる音も慰めにはならなくて、むしろかえって孤独を実感させ、私をさいなんだ。
そういえば、そんなときにはいつも母から電話が掛かってきたものだった。
「今夜何が食べたい?」
いつも、最初に聞いてくるのはそんなことだった。
それから、「どうしてる」「お昼ご飯は食べた」と他愛もない会話が続く。
それは、些細な何でもない会話だったのだけれど、私の涙を止めるには十分だった。
そんな幼い頃の出来事は、雨の音と一緒に思い出に変わった。
窓を離れ、冷蔵庫からチョコを取り出し座椅子に腰掛ける。
漠とした空気が部屋を満たしていた。
座椅子に身を預け視線を再び窓の外に向けた。
雨がより強くベランダをうっていた。
電話は鳴らない。