シネマな人々 第四回


s-6 合宿前日 男の子達
(駅に近い達也の家に荷物を搬入している。要が荷物を置く。達也が立っている。)
「合宿に持って行く荷物これで最後です。」
達也 「ああ。お疲れ様。」
「お疲れ様でした。じゃあ明日、五時半ごろ取りに来ますので。」
達也 「ああ。」
(要、達也の部屋から出る。日は大分傾き空は朱に染まりつつある。出たところには、康煕が待っていた。)
「コーキ帰ろう。」
康煕 「おぅ。」
(歩き出すふたり。ヒグラシが鳴いている。)
「いよいよ明日から合宿か。わくわくするね。」
康煕 「そうそう、修学旅行の前日みたいな感じでな。」
「だよねー。」
(不意に立ち止まる要、いぶかしげに要を見る康煕。要何か決心したような表情を見せる。)
「…実はさ、今度の合宿で、俺、しようと思うんだ。」
康煕 「うん?…ああ天子先輩にか。」
「ああ。今度の合宿を逃したら、駄目な気がするんだ。だから…」
(要、急に大きな声で、)
「告白するぞー。」
康煕 「…は、恥ずかしい奴。」
「何とでもいってなよ。今の俺の気持ちは、大学入ってすぐ彼女作った奴にはわからないよ。」
(急に、康煕がしおれる。要、まずいことを言ったのかと不安げな表情になる。)
「どうした?まさか、朱美ちゃんとうまくいってないの?」
康煕 「いや、そうじゃないんだ。」
「うん、じゃ何?」
康煕 「朱美、さ。俺が映研に誘ったんだよ。」
「うん、そうだったね。でも、それがどうしたん。」
康煕 「俺、高校のころあいつが演劇やってたって聞いて、俺は演劇には興味ないけど映研にだったら誘ってもいいかなって思ったんだよ。そしたらあいつ、すぐにO.K.だしてさ、その日に一緒に入部したんだよ。」
「うん、それで。」
康煕 「この前、あいつの家に行って高校の時の演劇のビデオを見たんだよ。俺、てっきり脇役だとばっかり思ってたら、あいつ主役やっててさ。それが、すっげえ、うまかった。さっきも言ったけどさ、俺、全然演劇知らないけど、わかんの、あいつの凄さがさ。実際、見ている間ずっと鳥肌が立ってて、最後なんて涙まで流しててさ。そしたら、あいつ相変わらずのあのペースで心配すんの。ど〜したの〜。だいじょ〜ぶ〜ってさ。」
「なに、ノロケ?」
康煕 「ちがうよ。そしたら、なんか、俺もっと不安になってきたんだ。あいつはもっと、ちゃんとした部に入ってさ、ちゃんとした顧問について指導を受けたほうがよかったんじゃないかって。もしかしたら俺が、あいつの才能を浪費させてるんじゃないかって。」
「考えすぎだよ。」
康煕 「そうなのかもしれない。でも、そう思ってから、あいつとの間がなんかギクシャクしだして、なに言っていいか判んなくなってさ。避けてる。」
「そう?よく一緒に居るじゃないか。」
康煕 「とりあえず、秋生を呼んで話をつなげてるだけだよ。」
「そうなの。」
康煕 「…」
「…俺にはよく判んないけど、朱美ちゃんだって子供じゃないんだし、自分のしたいことは自分で判断してやってると思うよ。コーキが自分のせいで、朱美ちゃんから女優の道を奪ったって考えるのはちょっと傲慢じゃないのかな。」
康煕 「傲慢なのか。」
「そ、傲慢。それに、善かれ悪しかれ、結果は後から付いて来るんだし、今から悩んだってしょうがないでしょ。」
康煕 「そうなのか。」
「そう考えなきゃ、人生やってらんないよ。ケ・セラ・セラなるようになるさってね。」
康煕 「なんだそれ。」
「知らない?昔の歌だよ。母さんが好きでよく口ずさんでた。」
康煕 「…なるようになるさか。なんか、秋生みたいだな。」
「ゲッ、やめてよ、あんな男女といっしょにするのは。」
康煕 「男女って、おまえの好きな天子先輩だって男勝りな性格じゃないか。」
「天子先輩は、男勝りじゃないの、かっこいい人なの一緒にしないでもらえるかな。」
康煕 「そうかー?」
(分かれ道に差し掛かる。左は康煕の家、要はまっすぐ言ったところ。立ち止まるふたり。)
康煕 「じゃあな、また明日。」
「谷村駅で。遅刻しないようにね。」
康煕 「ああ、お前こそな。」
「じゃ、よい夜を。」
康煕 「よい夜を。」
(二人それぞれの家の方向に歩き出す。カメラ康煕の後を追う。)
康煕 「ケ・セラ・セラか…」