シネマな人々 第五回



s-7 合宿初日 さあ、宴の始まりだ
 

7-a>
(駅の前、部員が集まっている。思い思いに荷物の確認やこれからの旅の事を話し合っている。千裕、人数を数えて全員居るのを確認する)
千裕 「全員いるね。じゃ、そろそろ電車が来るから、荷物忘れないようにね。」
(全員荷物を持って駅の構内に入っていく。千裕、忘れ物が無いか確認して入っていく。電車内のシーン、スナップ写真をスライド風に写して表現。中継の駅のシーン。到着。駅前にみんな集まっている。)
秋生 「着いたー。」(大声)
康煕 「うるせー。」
秋生 「なによ。人の感動を邪魔しないでくれる。」
康煕 「感動するのは勝手だけど、せめて俺達の居ないところでしてくれないか。恥ずかしいから。」
秋生 「なに言ってんの、旅にきて感動するのは当然のことでしょ。それを恥ずかしいって、映画やるくせに感性鈍ってるんじゃない。あーやだやだ。」
康煕 「そこまで言うか。」
朱美 「ふたりとも、早く運びなさいって言ってるよー。」
康煕 「あっああ。」
秋生 「あっちゃんの言うことには素直だねー。」
康煕 「うるさい。」
秋生 「照れてる、照れてる。」
康煕 「うるせーよ。」
千裕 「そこの三人、遊んでないで早く行く。」
秋・康 「はーい。」
康煕 「お前のせいで怒られたじゃないか。」
秋生 「なにを…康ちゃんのせいでしょ。」
康煕 「いーやおまえのせいだ。」
朱美 「また、ふたりとも…」
千裕 「早くなさい。」
秋・康 「はいっ。」
(二人駆け足で去っていく。その後ろ姿を不機嫌な表情で睨んでいる千裕。)



7-b>
(駅の前に立っている千裕と天子と広二。千裕振り返る。)
千裕 「まったくもう、遊びに来たんじゃないっていうのに。ん、どうしたの天子?」
天子 「荷物、確認したんだけど無いのよ。」
千裕 「なにが?」
天子 「カメラ。」
千裕 「えーっ。」
天子 「すいません。たぶん乗り継ぎの駅において来ちゃったんじゃないかと思うんですけど?」
千裕 「わかった、ちょっと待って。」
(千裕、駅のところに駆けていき、落し物が無いか確認する。残された天子と広二の会話。)
広二 「ほんとすいません。」
天子 「しちゃったことはしょうがないでしょう。それに、私達も注意が足りなかった。責任は私たちにもあるよ。」
(千裕戻ってくる。嬉しそうな顔。)
千裕 「あった、あった。あの駅のホームにあったって。取りにくればすぐに返してくれるってさ。」
(安堵の表情の広二、天子。)
広二 「じゃあ、俺、とって来ます。」
千裕 「うんん。広二君は残って、原弘君と達也君とロケハンしてて。荷物は天子に取ってきてもらうから。いい天子。」
天子 「オッケ。」
広二 「でも、忘れたのは俺ですし。」
千裕 「ストップ。適材適所だよ。天子はメイク・衣装担当だから、カメラがくるまで仕事は無いけど、広二君はカメラマンだから、ロケハンに参加してもらわないと明日からの撮影が滞るでしょ。」
広二 「そうですけど…」
千裕 「はい、はい。もういいから。その代わりいい場所見つけて、いい画をとってよ。」
広二 「は、はい。」
千裕 「そうと決まったら。早く行く。」
広二 「はいっ。」
(広二、走っていく。)
天子 「さって、そんじゃ、私行ってくる。」
千裕 「うん、お願い。…それと、天子今夜ちょっと話があるんだけど、いい?」
(天子、話の内容を察してちょっと無感情に、)
天子 「…いいよ。」
千裕 「ありがとう。じゃあ、気をつけてね。」
天子 「うん。」
「天子先輩、僕も行きます。」
(振り向く千裕と天子、そこには要が立っている。)
「いや…一人だと暇ですし…僕も撮影が始まるまで、やることが無いですから。だから…」
天子 「結構、二人行くのは電車代がもったいない。」
(落胆の要。)
天子 「…要。私の荷物、宿まで頼むわ。」
「は、はい。」
(要、天子の荷物を持って走り去る。千裕、笑いをこらえている。)
天子 「うぶで単純な部員しか居ないのかね、うちは。」
千裕 「まったくね。」
(二人顔を見合わせて笑い出す。)



7-c>
(宿の廊下。達也・原弘・広二の部屋の前でうろうろと歩いているハルカ。)
ハルカ 「原弘いっしょに海行こう。…は、なれなれしいかな。うーん、私を海につれてって…は、バカっぽいし。バカはあいつだけで十分だわ。」
原弘 「誰だけで十分なん?」
ハルカ 「決まってるじゃない。広二よ広二。」
原弘 「ふーん。」
ハルカ 「って原弘。」
原弘 「珍しいね、一人。華恵…佐渡谷さんは一緒じゃないの?」
ハルカ 「う、うん、弟さん達に電話だって。」
原弘 「か…佐渡谷さんの家、母子家庭で母親が働いているから、弟残して来て心配なんだな。」
ハルカ 「…そうなの。何で知ってるの?」
原弘 「…まあ、同じ高校だったから。」
ハルカ 「ふーん、そうなんだ。」
原弘 「で、矢田さんはどうしたの。こんなところで。」
ハルカ 「原弘一緒に…う、う。」
原弘 「う?」
広二 (off)「ハラヤんお待たせ、ロケハン行こー。」
原弘 「おう、わかった今行く。そういう訳だからまたね、矢田さん。」
ハルカ 「う、あ、うん。」
(走り去っていく原弘。その場に崩れ落ちるハルカ。ふがいない自分に落胆するハルカ。そこに藍が通りかかる。)
「どうしたんですか、ハルカさん?」



7-d>
(海に続く道を歩いている、達也、広二、原弘。)
広二 「ハラヤん、ハルと何の話をしてたんだ。」
原弘 「う、がどうしたとか。」
広二 「鵜?鵜飼の鵜?ここら辺にそんな行事あったっけ。」
原弘 「さあ?」
達也 「無い。」
広二 「じゃあなんの、「う」なんだ。」
(原弘、海に行こうと言っていたのをわかっていたが白々しく言う)
原弘 「さあ、なんなんだろうね。」
(達也立ち止まる。つられて二人も立ち止まる。)
達也 「ほう。」
広二 「へー。」
原弘 「…(感動して言葉にならない)
(三人の眼下には、晴れ渡った青空と青い海が広がっている。)