シネマな人々 インターミッションI



I-1>のどもと過ぎれば栄養
(夜。宿でのこと。調理場で女の子達が料理をしている。男性陣は部屋で思い思いに作業をしている。原弘と達也と広二はコンテについて話している。トイレに行くために広二は調理場の前を通る。会話が聞こえ中を覗く。)
千裕 「天子、お味噌汁これでいい?」
天子 「うん?…いいんじゃない。」
「華恵先輩、包丁使うのうまいですね。」
華恵 「毎日弟達のご飯作ってるから。あー、ハルカ何やってんの。」
ハルカ 「何って、お米を砥ぐんだけど。」
華恵 「お米を砥ぐのはわかったけど,左手に持ってるのは何?」
ハルカ 「?…雑菌もいちころ、パワフルジ〇イ。」
華恵 「雑菌どころか私達もいちころだって。」
ハルカ 「えーだって、裏のほうに野菜とかも洗えるって書いてあるよ。」
(藍、洗剤の容器の裏を確認する。)
「本当です。書いてます。」
ハルカ 「でしょー。」
華恵 「でも、入れるんじゃない。米は洗うんじゃなくて砥ぐの。砥ぐ。精米の時に残った糠を砥いで落とすの、洗うんじゃないの。」
女性陣 「へー。」
華恵 「先輩達まで、何、感心してるんですか。…先輩、お味噌汁に何を入れようとしてるんです!?」
千裕 「牛乳、まろやかになるんじゃないかと思って。」
華恵 「やめてください!」
(広二、恐々とした顔で部屋に戻る。)
原弘 「おかえり。…どうしたんだ疲れた顔をして。」
広二 「実は…」
ハルカ 「お待たせー。」
(女性陣が料理を持ってはいってくる。華恵は疲れた表情をしている。)
達也 「やっとか。」
康煕 「おなかペコペコだよ。」
原弘 「うん?広二食べないのか。」
広二 「うん、ああ、俺はいいや、ちょっと食欲がなくて。」
(微妙な表情の広二の顔の止め絵にナレ重なる)
ナレ 「この日少年は一つの諺の意味を体感した。」
(画面に、“知らぬが仏”の文字)



I-2>
(夜の防波堤。正面には砂浜と大きな月。千裕、深刻な顔で、携帯を見ている。天子その後ろで、哀しそうな顔で立っている。千裕、人の気配に気づきを振り返る。)
千裕 「天子、いつ来たの。」
天子 「ちょうど今来たところ…ところで千裕相談って?」
千裕 「孝のことなんだ。」
天子 「…まだ、切れてなかったんだ。…やめなよ、千裕には似合わないよ。」
千裕 「…うん…でも、どうしようもないの。だめだとわかってる、悪いことだとも思う…でも…」
天子 「…なにそれ、ハッキリしないなぁ。」
千裕 「天子は、人を好きになったことが無いからわからないんだよ。」
(天子、はっとした表情、そして苦渋の表情に。千裕は恋の苦しみについて語る。上の空でそれを聞く天子。天子、小声でつぶやく。)
天子 「わたしは、わたしは…千裕が」
(千裕気づかない。不意に二人に声がかかる。)
康煕 「あれぇ、先輩たちこんなところにいたんですか。」
(康煕、その他部員、一緒に現れる。なぜか動揺する千裕。)
千裕 「み、みんな、どうしたのこんな時間に?」
(康煕、手に持っていた花火を示す。千裕、はっとしてなんかうずうずした表情になる。)
康煕 「花火をしようかと思って。…そういう先輩たちだって、なんでこんなところにいるんです?」
(千裕、聞かれたくないことを聞かれ、気まずい雰囲気。)
千裕 「うん、あぁ…」
天子 「月がきれいだから。」
(みんな納得したようなしてないような表情になる。要、康煕を押しのけて前にでる。)
「先輩たちも一緒にやりませんか、花火?」
天子 「そうね、わたしはいいけど、千裕、どうする?」
(千裕、なんか燃え上がっている。)
千裕 「やる。花火と聞くと、なんか、こう胸の奥が燃え上がるんだわ、私。」
原弘 「なんですか、それ。」
天子 「お祭り好きの習性ね。」
(みんな納得したような表情。千裕だけちょっと憮然としたような表情)
千裕 「そんなことはいいから早くやりましょう。明日は忙しいんだから。」
(取り繕う千裕の様子がおかしくてみんな笑う。)
 
(砂浜に行って、花火をしている。楽しそうな面々。はしゃいでいる千裕。その様子をじっと見ている天子。要、その様子に気づく。)