8-a> | |
(朱美〈ワカバ〉、防波堤に座っている。そこに、康煕〈涼〉が歩き、もしくは自転車で近付いてくる。) | |
涼 | 「そんなとこで何してるの。」 |
ワカバ | 「海見てるに決まってるでしょ。…ナンパ?」 |
涼 | 「はっ?……そんなんじゃねーよ。」 |
(怒って、涼、走り去る。) | |
達也 | 「カット。」 |
原弘 | 「監督、OK?」 |
(うなずく達也) | |
原弘 | 「じゃあ次のシーン行きます。衣装換えお願いします。」 |
(達也と広二、次のシーンのカメラワークを打ち合わせている。康煕、朱美は衣装の換えに戻る。天子も手伝いに戻る。藍、記録をとっている。原弘、華恵と要に次のシーンの説明をしている。秋生〈音声〉と藍はおしゃべりしている。千裕はレフ板を下ろしその様子を見ている。ハルカはいない。戻ってくる三人。それを確認する原弘。) | |
原弘 | 「それじゃあ、S−6行きます。準備してください。」 |
(ばらばらの部員、撮影のために集まる。) |
8-b> | |
(遠景で、海辺で撮影している様子。監督がカットと言う。原弘、監督と話している。頷いている原弘。原弘アップ。) | |
原弘 | 「はいお疲れ様でしたー。休憩です。次の撮影は4時からなんで、それまでには宿に戻ってきてください。」 |
みんな | 「はーい。」 |
(思い思いに解散する部員。千裕に携帯がかかってくる。それをとる千裕の表情は暗い。) | |
千裕 | 「もうかけないでって言いましたよね…えっ来てる。そんな、急に言われても、…いや今は休憩だから大丈夫ですけど…はい、わかりました…」 |
(朱美、その横をすり抜けて康煕のところへ。) | |
朱美 | 「コーキ、一緒にお昼しよ。」 |
(康煕、それに気付かずに、要のほうへ行く。) | |
康煕 | 「要、片付け手伝うよ。」 |
要 | 「うん、レフ板お願い。」 |
(康煕、レフ板を持って宿に向かう。残された朱美、その場に立ち尽くしている。その様子を秋生が見ている。) |
8-c> | |
(要と康煕が荷物を持って歩いている。) | |
要 | 「なあ、いいの?」 |
康煕 | 「何が。」 |
要 | 「朱美ちゃんだよ。」 |
康煕 | 「ああ。」 |
(康煕立ち止まる。振り返る要。) | |
要 | 「どうしたの。」 |
康煕 | 「…なあ、あいつの演技凄かったろ。 |
要 | 「うん?ああ…凄かった。まさか、あそこまで化ける、言い方悪いけど化けるとは思わなかった。普段あんなにボーっとしてるのに、カチンコなったらガラッと人が変わって、うん…ちょっとオーバーリアクションで演劇っぽかったけど…ああ、そういうこと。まだ吹っ切れてないの。」 |
康煕 | 「それどころか、あの演技と比べられてさらに自己嫌悪だよ。」 |
要 | 「難儀な奴だね。」 |
(再び歩き出だそうとした康煕、後ろから秋生にどつかれて、こける。秋生、仁王立ちで康煕の前に立つ。) | |
秋生 | 「この、甲斐性なし!」 |
康煕 | 「いてーな、いきなり何するんだよ。」 |
秋生 | 「うるさいうるさいうるさい。」 |
(秋生、こけた康煕をめった蹴りにする。慌ててとめる要。しかし、暴れつづける秋生。康煕、こけた時にちょっと顔を擦り血が出ている。) | |
要 | 「秋、やめな。」 |
秋生 | 「いんや、やめない。こんなバカは口で言ってもわからないんだ。そんな奴はたたいてもわからない。だから止めない。」 |
要 | 「訳わかんないよ。」 |
秋生 | 「わけ?訳は簡単、私がむかついているからだわ。それ以外に理由なんて必要ない。」 |
要 | 「余計わかんない。」 |
秋生 | 「ええい離せ、この色ボケ年増趣味。」 |
要 | 「なっ、何言ってんだよ。この暴力男女。コーキ、俺、秋の頭冷やして来るから、荷物頼む。」 |
(要、秋生を引きずってもと来た方へ。) | |
秋生 | 「何すんの、離せ、あたしはまだやり足りないんだから。」 |
要 | 「これ以上やったらやばいって。」 |
秋生 | 「やばくない。やばいのはあいつの頭ん中だ。あんな良い娘を自分のエゴだけで苦しめてるんだ、死んだほうが、まだましだ。あっちゃんは、あっちゃんは、あんたのために散々悩んでんだぞ、何か悪いことをしたんじゃないか、他に好きな人ができたんじゃないかとか。それがなんだ、結局あんたは自分に自信が持てなくて、ひがんでただけの事じゃないか。何でそこで排除しようとするんだ。好きなら一緒に大きくなっていこうとすればいいだろう。あっちゃんが眩しいからって、あっちゃんを苦しませるな。それができないあんたなんか生きてる価値が無いんだ。」 |
要 | 「…過激なこと言ってるな。いいから行くよ。」 |
秋生 | 「やめれ。離せ。この変態野郎。」 |
(要、秋生を連れて、海の方へ行く。康煕立ち上がろうとする。ふと目の前に人が立っているのが目に止まる。顔をあげると、そこには朱美が立っている。) | |
康煕 | 「朱美…ゴメン、俺、俺。」 |
(朱美、何も言わずにハンカチを取り出し、しゃがんで康煕の血をぬぐう。) | |
康煕 | 「朱美、ゴメン…ゴメン。」 |
(康煕、うつむく。) | |
朱美 | 「コーキ、私のこと好き。」 |
康煕 | 「好きだ。大好きだ。お前が一番好きなんだ。」 |
(うつむいた康煕は数滴の雫が、地面に落ちるのを見る。顔をあげる康煕。笑顔で涙を流している朱美。) | |
朱美 | 「よかった。…よかった。」 |
康煕 | 「ごめん、ごめん。」 |
8-d> | |
(海沿いの道で秋生を引きずっている要。まだ暴れている秋生。) | |
秋生 | 「放せ放せ放せ。」 |
要 | 「ここら辺でいいかな。」 |
(要、秋生を放す。秋生勢い余って転がる。) | |
秋生 | 「放すなら放すと言ってからにしろ。」 |
要 | 「放すにしろ放さないにしろ、どっちにしてもうるさい奴だなまったく。」 |
(秋生、怒っているが、不意に何かを発見して、表情が好奇に変わる。) | |
秋生 | 「しっ、黙って。」 |
(秋生、要の口を手でふさぐ。秋生の視線の先にはキスをしている男女。キスが終わって、顔を放すと女は千裕だった。男は知らない人。) | |
要 | 「…千裕先輩…隣にいるの誰だろう、どっかで見たことがあるような。」 |
秋生 | 「たしか、客員の講師。前期、般教でとった。でも確か、結婚指輪をしていたような。」 |
要 | 「ふーん…えっ!てことは、不倫!」 |
秋生 | 「ばか、声が大きい。」 |
(秋生、要の首をしめる。要、秋生の絞めている腕をたたく。千裕と男、二人と反対方向へ歩いていく。) | |
秋生 | 「気付かれなかったみたいね。…何寝てんの?」 |
(秋生に首を絞められ、要ぐったりとなっている。秋生が手を放すと要崩れ落ちる。苦しそうに咳をする要。) | |
要 | 「げほっ、げほっ、何するんだよ死ぬかと思った。」 |
秋生 | 「さっきのお返し。」 |
要 | 「お返しも何も、今の下手したら死んでたぞ。」 |
秋生 | 「この程度で命の危険を感じるなんて、あんたもしかして虚弱体質?」 |
要 | 「虚弱体質?とかの問題じゃないだろ。…(ため息)お前と話してると疲れる。」 |
秋生 | 「何、人を変人みたいに言ってんの。色ボケ年増趣味の変態野郎に言われたくはないわ。」 |
要 | 「また言った。なんだよそれ。」 |
秋生 | 「皆知ってるって、あんたが天子先輩のこと好きなの。」 |
要 | 「なぁ、何でそれを…」 |
秋生 | 「あそこまであからさまで、わからないほうがおかしいでしょ。あんたちょっと足りない?」 |
(要怒って、秋生をおいて歩き出す。) | |
秋生 | 「何、逃げるの。ちょっと待ちなさいよ。」 |
(秋生、要の後を追って歩き出す。) |